1985年3月C日

ホームステイ先のニコルソン家は4人家族。30才で生物学の博士号を持つオーエン、もと高校の生物の先生だった29才の奥さんフローラ、そして5才のジュリアンと3才のマルコムという二人の男の子という構成。
オーエンはあまり学者タイプには見えない気さくな人で、フローラも広い心の持ち主だ。彼らは西オーストラリア大学の生物学科の先輩と後輩で、なんと彼らが21才と20才の時に結婚したという、すでに結婚生活10年目のベテラン夫婦である。
オーエンは二人の子供に、特に下のマルコムに対して非常に厳格な父親である。オーストラリアの人は一般的に男性も礼儀正しい人が多いが、このあたり、この国の父親の方が日本の父親に比して、子供の教育に対してより大きな責任を負っているがゆえではないだろうか。
この頃日本で問題となっているイジメの責任は学校の先生にありや、親にありやという議論があるが、ニコルソン家に住ませてもらって、その答えが疑うことなくそれが親に、特に男親にあり、ということが鮮やかに判明したと言える。
そして奥さんのフローラ。日本の女性を見慣れた目にはオーストラリアの女性が動く岩に見える時がないでもないが、フローラの場合は少し違うようである。この国の女の人にはフェミニスト(女性の権利を声高に主張する人たち)と呼ばれる人たちがけっこうたくさんいるらしいが、彼女の場合はほぼ日本の良妻賢母のタイプそのままの感じで好感がもてる。
二人ともよく口ゲンカをするが、まあ仲良し夫婦のうちではあろう。そして二人とも極めて知的で、いつまでも付き合っていってもらいたい人たちである。
上のジュリアンは小児ぜんそく持ちで多少病弱な感じだが、弟のマルコムは人なつっこく、元気いっぱいのワンパク坊主である。10才以下の白人の子供というのは、信じられないくらいカワイイものだが、この二人も例に漏れず、オレが学校から帰ると、「ケン、ケン!」と叫びながら、一直線に駆け寄ってくる。
こんな年頃の子供と一緒に暮らすのは初めてだが、彼らと遊んでいる時の自分の表情が、ごく自然と穏やかなものになっているのが鏡を見ずともわかる。ただ問題なのは、二人ともオレよりか英語の口語表現がはるかに上手なのに、少なからずガク然とすることが多々あることである。
平穏な日々だ。”